1946年(昭和21年)公開の大映映画『夜光る顔』。
菊田一夫原作のNHKラジオ連続放送劇の映画化作品です。
出演は宇佐美淳・見明凡太朗・伊澤一郎など。
脱税を企てる戦時成金と、その分け前にありつこうとする顧問弁護士。
そんな二人の前に「夜光る顔」と称する怪人が現れ、怪文書を残して消えていくのですが…。
宇佐美淳演じる警部が謎解きに挑むミステリー作品です!
作品情報
【時間】72分/モノクロ
【配給】大映
【原作】菊田一夫
【監督】久松静児
【出演】宇佐美淳/見明凡太朗/伊澤一郎/相馬千惠子/逢初夢子/折原啓子/上代勇吉/花布辰男/桂木輝夫/小原利之/宮島城之/宮崎準之助/髙田弘/山田春夫/浦邊粂子
あらすじ
脱税を企てる戦時成金・倉石金之助(上代勇吉)と、その分け前にありつこうと画策し倉石に迫る、倉石家の顧問弁護士・野辺地(見明凡太朗)。
言い争う二人の前に「夜光る顔」と名乗る怪人が現れ、“五百五十万円相当の宝石類を没収する”という怪文書を残していく。
その翌日、倉石の宝石は盗まれた。
事件当日に怪しい動きを見せていた倉石の息子・徳穂(伊沢一郎)に嫌疑がかかるが、「もう一人の徳穂」が警察の前に姿を現し…。
ロケ地
日本橋
謎の男・高石(変装した伊澤一郎)が日本橋を横断するシーンがあります。
橋のすぐ横にあるレンガ造りの美しい建物は、帝国製麻ビルです。
第一相互館前
京橋の第一相互館の前を徳穂(伊澤一郎)が歩くシーンあり。
また、警察から逃げる高石が、第一相互館前で都電に飛び乗るシーンもあります。
歌舞伎座周辺
焼け跡を歩く徳穂を追いかけてきた野辺地(見明凡太朗)が、徳穂に突っぱねられるシーンがあります。
このシーンの撮影場所は、銀座の歌舞伎座周辺です(当時の住所でいうと木挽町あたり)。
よく見ると、ふたりの後方に歌舞伎座の屋根部分が少し見えます。
戦災により大屋根部分が焼失してしまってボロボロになっているのが、画面からもハッキリと分かります。
この焼け跡のシーンをよくよく見ると、奥の方に日劇らしき建物もチラリと見えます。
采女橋
謎の男・高石(変装した伊澤一郎)が警察から声を掛けられるシーンの撮影場所は、現在の銀座5丁目~築地4丁目に架かっている采女橋。
上記の焼け跡の撮影場所のすぐ目の前です。
三井本館前
警察に声を掛けられた高石が、日本橋の三井本館前を通って逃走するシーンがあります。
手前に映っている建物は、日本橋三越本店。
なので、三井本館と日本橋三越本店の間の道(現在の江戸桜通り)を通っていることがわかります。
主題歌・挿入歌
挿入歌
- 「小雨の丘」小夜福子(歌:相馬千惠子)
楽曲使用シーン
- 「小雨の丘」
白川早百合(相馬千惠子)がレビューで歌う。
戦争の記憶
戦時利得税・財産税といった話が出てきます。
「夜光る顔」のターゲットとなった戦時成金・倉石金之助(上代勇吉)は、戦時中に弾が出ない銃を軍に提供して金を儲けていて、さらには脱税をしようと企てます。
そんな倉石に怒りの鉄槌を下そうとするのが「夜光る顔」なんですね。
戦後間もないので、ストーリーにも戦争の影が色濃く反映されています。
街中のロケでは、銀座周辺などを歩くシーンがありますが、戦災の焼け跡が実に生々しい。
瓦礫の山の中を普通に歩いているシーンを見ながら、この苦しい時代を必死に耐え忍んで生きてきた先人たちの生活に思いを巡らせました。
この時期に撮影された映画には、こういった焼け跡が普通に出てくるので、戦災の記録としても大変貴重だと思います。
キラリ☆出演者ピックアップ
伊沢一郎
「夜光る顔」の嫌疑を掛けられた稲田徳穂を演じているのが伊沢一郎。
警察の前には「もうひとりの徳穂」も現れ、事件は混乱を呈す。
実は徳穂には生き別れの双子の兄がいて、その兄・一穂は戦死したはずだったのが、実は復員していて…。
徳穂と一穂、一人二役を演じています。
演じている伊沢一郎自身も3年ぶりに復員したばかりで、本作が復帰作のようです。
復員したばかりということもあって、かなり痩せています。
久しぶりの復帰作となった演技に注目です。
上代勇吉
悪徳戦時成金・倉石金之助を演じる上代勇吉は、後の出演作品なんかを見ると、もう少しお顔がふっくらとしている印象があるのですが、この当時はお顔がシュッとしていて、今風の言葉でいうと「イケオジ」な感じですね。
本作では老けメイクを施しているので、ロマンスグレーの悪徳成金親父となっていますが(笑)、実際はもっと若いです。
(わたしが調べた限り、プロフィールは明治38年生まれとなっているものと、明治40年生まれとなっているものがありましたが、いずれにしても当時まだ40歳前後のはず。)
わたし個人的に結構好きな俳優なので、こうして目立つ役で活躍されている姿を見られるのはとても嬉しいです。
ぜひ多くの方に上代勇吉の演技にご注目いただきたいですね。
【映画レビュー】悪徳戦時成金に怒りの鉄槌を下す!
原作は菊田一夫。
NHKラジオの連続放送劇の映画化作品です。
タイトルの「夜光る顔」って一体何だよって思われるかもしれませんが、これが怪人さんの名前なんですね。
脱税を企てる戦時成金・倉石金之助(上代勇吉)と、分け前にありつこうとする顧問弁護士・野辺地(見明凡太朗)。
二人が言い争いをしていると、「夜光る顔」と称する怪人が現れて怪文書を残して消えていき、その翌日、倉石の宝石が盗まれてしまう。
金のためなら、どんな手を使ってでも商売敵を潰してきた倉石。
戦時中には、弾の出ない機関銃を軍に提供するという悪事まで働いていたのでした。
そんな倉石をひどく憎んでいた息子の徳穂(伊澤一郎)に嫌疑がかけられるのですが、警察の前に「もう一人の徳穂」が現れ、事件の謎はさらに深まるばかり…。
初見だといろいろと混乱してしまう部分があり、話の筋が少々わかりづらいかもしれません。
まぁ、見返せばちゃんとわかるんですけど。
「夜光る顔」の仮面は、かなりこだわりを持って製作されたようで、仮面には燐が塗られているとのこと。
白黒作品でも、あのように暗闇の中で光る顔を美しく再現できたのは、こういう細かなこだわりがあったからなのですね。
(ちなみに、この記事のアイキャッチ画像に使っている仮面の写真は、劇中に登場する「夜光る顔」の仮面とはまったく無関係です。念のため。)
「夜光る顔」は、いわば”正義の怪人”といったところ。
悪徳戦時成金の罪を暴露し、その財産を民衆に返す、さらには倉石に改心を促す…という、なんとも爽やかな怪人さんなのです。
裁きを受けることは免れませんが、やっていることは人として悪いことはしていない、むしろ同情を覚えます。
はっきりいって、「夜光る顔」よりも、顧問弁護士の見明凡太朗の方が怪しさ満点で悪徳で不気味すぎるので、むしろそちらの方が怪人っぽいと思ってしまいます(笑)
そんな見明凡太朗の素晴らしい怪演技にもご注目ください(笑)