殺すが如く【1948年(昭和23年)/大映】

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1948年(昭和23年)公開の大映映画『殺すが如く』。
出演は、水戸光子・若原雅夫・植村謙二郎ほか。

病院を強請りにやってきた、ミステリアスな赤新聞の婦人記者。
そんな彼女に不思議な魅力を感じ愛するようになる、病院の若医者。
しかし、二人の愛を脅かす存在が立ちはだかり…。
二人は愛を貫くことができるのか…!?

 

作品情報

殺すが如く
【公開】1948年(昭和23年)
【時間】79分/モノクロ
【配給】大映
【原作】高田保(旬刊ニュース所載より)
【監督】田中重雄
【出演】水戸光子(松竹)/若原雅夫/東野英治郎(松竹)/植村謙二郎/吉井莞象/大原讓/羽鳥敏子/平井岐代子/近松里子/メリー松原(ロック座)/潮万太郎/花布辰夫/加原武門/滝謙太郎/泉静治/山田惠一郎/小杦光史/髙品格/原田詃/池上湧子/藍三千子/近藤りん子/原みさを/織賀邦江/曉かほる/早川百合子

あらすじ

赤新聞の記者・絢子(水戸光子)は、西田病院をネタで強請り、五万円を手にして病院を後にした。
病院の若医者・一平(若原雅夫)は、強請りに来た絢子に何ともいえない興味を持ち、後をつける。
不思議な雰囲気をまとう絢子に惹かれる一平。
一方の絢子も一平に惹かれていくが、堕落してしまった自身を恥じて素直になれず、また、絢子を翻弄する新聞社の社長・島村(植村謙二郎)が絢子を離さず…。

 

 

ロケ地

有楽町のガード下

タイトルバックで有楽町ガード下の映像が流れます。

また、時枝(羽鳥敏子)たちがいつもガード下で靴磨きをしており、一平(若原雅夫)がそこでいつも靴を磨いてもらっています。
靴磨きのシーンは、おそらく第2有楽橋架道橋(現存)の下。
この当時でいうと、日劇から毎日新聞本社の手前あたりへと抜けるガードです。
時枝が通りすがりの警官にウインクするシーンで、警官の背後、ちょっと奥の方に、当時の毎日新聞本社の建物が映っています。

 

数寄屋橋

タイトルバックあけに映るのは、山下橋側から撮った数寄屋橋の映像。
数寄屋橋のすぐ脇には、朝日新聞東京本社の大きな建物が見えます。

 

丸之内橋

冒頭、一平が橋の上から自宅の病院を眺めるシーンがあります。
この橋は、数寄屋橋の隣にあった丸之内橋。
一平は、丸之内橋から新有楽橋方面を眺めています。

一平の進行方向に見える白い大きな建物は、読売新聞社。
丸之内橋のすぐ脇にある建物(子どもがシケモクを奪っていくシーンで、若原雅夫の背後に映っている建物)は、東京都電気研究所です。

 

日比谷公園

警察に一平の身柄を引き取りに行った絢子。
二人は日比谷公園の小音楽堂へ行き、語り合います。

 

山下橋

終盤、一平の元へ向かおうと新聞社を出た絢子が通る橋は、数寄屋橋の隣りにあった山下橋。
消防車のサイレンが鳴り響く中、絢子は橋のたもとで泣き崩れます。

タイトルバックあけに映った数寄屋橋の映像も、山下橋側から撮られたものです。

かつて外濠に架かっていた、今はなき橋がたくさん登場するのが印象に残る作品です。

 

 

主題歌・挿入歌

主題歌

☆「地獄の花」宮野信子
☆「ウエルカム・ジルバ」都能子/キング・シスターズ

(☆印:OPにクレジットがある曲)

 

挿入歌

  • 「東京ブギウギ」笠置シヅ子(鼻歌のみ)

 

楽曲使用シーン

  • 「東京ブギウギ」
    時枝(羽鳥敏子)が鼻歌をうたう。

  • 「地獄の花」
    バー「サンブルー」で絢子(水戸光子)と島村(植村謙二郎)が踊るシーンのBGM。

  • 「ウエルカム・ジルバ」
    バー「サンブルー」のステージで都能子が歌う。

 

MEMO

音楽は斉藤一郎。

主題歌の「地獄の花」(宮野信子)は、作詞:高橋掬太郎、作曲:飯田三郎。
「ウエルカム・ジルバ」(都能子)は、作詞:矢野亮、作曲:上原げんと。

 

なつかしの雑誌・小説

サロン

島村(植村謙二郎)が「誰かちょっと(絢子の)様子を見てきてもらおうか」と言うシーンで、髙木(花布辰夫)が手に持っている雑誌は、おそらく、「サロン」昭和23年7月号。
この号には、映画『駒鳥夫人』の特集などが掲載されているようです。

表紙のイラストは、岩田専太郎が手がけたものです。

 

戦争の記憶

終始浮かない顔をしている、一平(若原雅夫)と絢子(水戸光子)。
主人公の男女二人がこんなにやさぐれてるメロドラマっていうのも、たまにはいいですね(笑)
ただ、二人がこんな顔をしているのには、戦争もちょっとばかり絡んでるんですね。

一平は、復員後ろくに仕事もせずにフラフラしている若医者。
復員してくる時には希望に溢れていたものの、帰ってきてみると実家の病院は悪徳病院と化して落ちぶれていて、絶望に打ちひしがれ、医者の仕事もせずに毎日フラついています。

一方の絢子は、赤新聞の記者というロクでもない仕事をしていますが、絢子は社長の島村(植村謙二郎)の言いなりで、やりたくもないことを強要され、堕落した生活を送っています。
なぜ絢子は島村のいいなりになっているのかというと、そこには引き揚げ時の事情が絡んでいました。

戦争の影を引きずって、生きる希望の光も見いだせずにいた男女。
そんな二人が出会い、惹かれ合う姿を描き出します。

 

 

熱狂!歌唱シーン♪

都能子

主題歌のひとつ「ウエルカム・ジルバ」を歌う都能子が、赤新聞の階下にあるバー「サンブルー」のステージで歌うシーンがあります。
都能子というとあまり聞かない名前かもしれませんが、後に「君の名は」を大ヒットさせる織井茂子といえばわかるでしょう。
都能子の芸名で活動していた期間は長くないので、都能子時代の映像は珍しいのではないかと思います。
本作以外では、同年に公開された映画『』(松竹)に出演して歌っているのを見ましたが、他にももし都能子時代の映像があれば見てみたいですね。

OPの配役のクレジットには名前はないのですが、本人が出てきて歌っています。
(主題歌のクレジットはあり。)

パンチの効いた歌唱に、時折かぶさる「キター!」「ワッハー!」なコーラスが楽しい、実に軽快なウキウキサウンド。
ホールで踊る客役の役者たちの楽しい表情もリンクして、なかなかの盛り上がりを見せる歌唱シーンです。

悪党・植村謙二郎が、この曲がズンズン鳴り響く中で力尽きるシーンがまた素敵。

個人的に、織井茂子は「君の名は」のようなしっとり系の曲よりも、本作で歌っている「ウエルカム・ジルバ」みたいな軽快でパンチの効いてる派手な曲の方が好みなので、こういう曲の歌唱シーンが見られて嬉しいです。
織井茂子は、1953年(昭和28年)公開の映画『多羅尾伴内 片目の魔王』(東映)で歌っていた「マンボムーン」もカッコよかったので、そちらもオススメです。

 

キラリ☆出演者ピックアップ

羽鳥敏子

有楽町のガード下で靴磨きをしているのが、羽鳥敏子。
いつも靴磨きにやってくる一平(若原雅夫)に密かに思いを寄せつつ、一平と絢子(水戸光子)の愛の行方を影からそっと応援する、なんとも健気な女性を演じています。

童顔だからなおさらだと思うのですが、ピュアで可愛らしい魅力が溢れ出ていて、なんとも素敵です。
汗をふきふきしながら靴磨きに励むシーンも健康的で、あぁ、労働って素晴らしいな!と思わせる輝きがあるんですよね。
ウインク☆キラーン!のシーンでは、思わずこちらもウインク返ししちゃいたくなる(笑)、実に可愛らしいキャラクターです。

 

 

【映画レビュー】赤新聞と若医者…人生再起を賭けた愛

「殺すが如く」…推理サスペンスっぽいタイトルの映画ですが、サスペンス風味のメロドラマでした。

デキる男風な感じで登場する、新聞社社長の植村謙二郎。
ほう、今回はイケてる敏腕社長の役なのか!と思ったら違った。
植村謙二郎はやっぱりワルだった…(笑)

実はこの新聞社というのは赤新聞、社長の植村謙二郎は、お気に入りの水戸光子を利用して、あれやこれやとやり放題の悪党なんですね。

赤新聞の記者・水戸光子は、西田病院を強請りに行きますが、そのときに若医者・若原雅夫と知り合います。
訳アリな感じの水戸光子ですが、そんなミステリアスな彼女に惹かれる若原雅夫。
水戸光子も、真っ直ぐな若原雅夫に徐々に惹かれていくものの、堕落した人生を送っている自身を恥じ、葛藤に苦しみ悶えます。

二人の愛の表現は、婉曲的な表現が多いのですが、これが美しい。
こういう控えめでちょっともどかしいくらいの方が、真摯な愛を感じられて、個人的にはすごく好きです。
この時代のこういう感じ、文学的な香りが感じられるし、品があって憧れるんですよね。

水戸光子はなぜ社長・植村謙二郎のいいなりになっているのか、ハッキリとした理由がなかなか明かされないのですが、終盤になって、そうなるに至った経緯が明らかになります。
女の自分には自由な生き方などない…と縛られてきたというのは、時代だなぁ…と思いました。

ひたすら自己否定を繰り返す水戸光子に、まぁそこまで自分を責めなくてもいいんじゃないのと言いたくなるんですが、こういう「自分を幸せにすることが許せない」人というのは、昔も今もたくさんいる気がします。
表面的には幸せを求めつつも、潜在レベルでは自分は無価値で幸せになるべきではない人間だと叫び続け、自ら幸せを遠ざけてしまう。
罪悪感が、自らを不幸に縛り付ける。
そんな真理を見せつけてくる作品です。

ラストは一応、その後の展開に希望が見いだせそうな終わり方なので、救われた感じです。

都能子(織井茂子)が歌う「ウエルカム・ジルバ」がズンズチャッチャ♪ズンズチャッチャ♪と鳴り響く中で、植村謙二郎が泥まみれになって力尽きるシーンがイカす!
悪党にふさわしい、華やかなる破滅!!
それにしても、植村謙二郎は色気があって本当にいい男だなと、本作を見て改めて惚れ直してしまいました。

赤新聞の事務所で、潮万太郎たちが必死になって作っているのは、カルメ焼き!
重曹がどうのとか、どうして膨らまないんだとか、いろいろ言いながらカルメ焼き作りに励んでいる姿が、妙に印象に残ります(笑)
米の代わりに配給された砂糖でカルメ焼きを作るのが流行していた時期ですからね。
楽しそうにやっていますが、やはりとても貧しくてみんな食べるのに苦労していたんだな…という時代の空気を感じますね。
映画に出てくる食べ物を食べたくなっちゃうのが私の常なのですが、この映画観ていたら、カルメ焼きを食べたくなってしまいました(笑)

 

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