1956年(昭和31年)公開の東映の映画『警視庁物語 逃亡五分前』。
本作含め全24作品がつくられた「警視庁物語」シリーズの記念すべき第一作目です。
深川で起きた強盗殺人事件、さらに続く同様の事件…。
次々と巻き起こる事件に、警視庁捜査一課の刑事たちが挑みます。
作品情報
【時間】60分/モノクロ
【配給】東映
【監督】小澤茂弘
【出演】堀雄二/伊藤久哉/南原伸二/星美智子/神田隆/小宮光江/松本克平/日野明子/富田仲次郎/山本麟一/須藤健/花澤德衛/大東良/和田道子/神代昌子/田島三津子/関山耕司/瀧謙太郎/戸田春子/潮健児/檜有子/岩上瑛/豊野彌八郎/南川直/高田博/片山滉/小塚十紀雄/高原秀麿/佐原廣二/若松玲二/北峰有二/清水正/澤彰謙/久保一/瀧島孝二/瀧澤暲和/富川千惠子/篠木加代子/深澤ジヨー/山崎公/ファリー・ジェームス
(※OPクレジットでの小塚十紀雄の「紀」の表記は糸へんに巳)
あらすじ
深川でタクシー運転手を襲う強盗殺人事件が発生した。
怪しい人物を目撃していた者の証言から、白マスクの男が浮かび上がる。
その後も似たような事件が立て続けに発生するが、田町で発生した事件の現場に落ちていた万年筆から、もう一人の人物が浮かび上がり…。
ロケ地
柳橋
深川の事件で被害に遭ったタクシー車内にあった遺留品の情報から、長田刑事(堀雄二)と宮川刑事(南原伸二)が捜査に出向いたのが柳橋。
警視庁
「警視庁物語」シリーズでは毎回登場する警視庁の建物。
昭和6年5月に完成した建物です。
深川警察署
事件の捜査本部が置かれているのが深川警察署。
建物は大正15年3月に建てられたものです。
裏参道ガード
代々木で起きた事件の現場は、おそらく裏参道ガード下。
裏参道ガードは、明治神宮の北参道入口付近にある山手線のガードです。
ちょうど代々木一丁目と千駄ヶ谷四丁目の境のあたりにある「北参道入口交差点」のすぐ近くにあります。
当時の住所でいうと、代々木山谷町と千駄ヶ谷四丁目の境のあたりになります。
理容タカヤ
「理容タカヤ」は、東京駅の名店街にあった理髪店。
店からの通報を受けて、宮川刑事が捜査のために店を訪れます。
当時の最新の設備をそろえた、時代の最先端をいくモダンな大型店舗。
待合スペースと施術スペースを分けているのも、当時としては斬新なスタイルだったようです。
店舗の設計は、鉄道会館設計部の阿部秀雄氏。
東京駅構内
名店街の「理容タカヤ」を出た小磯(伊藤久哉)は、その後、同じく東京駅構内にあるロッカールームへ。
その後、ホームへと移動し、列車に乗る。
後を付けていた宮川刑事もロッカールームからホームへと移動し、小磯と同じ列車に飛び乗る。
浅草
宮川刑事が単独で捜査のために訪れる。
浅草六区のロキシー映画劇場・常盤座などが映っているのが確認できます。
終盤、つや(星美智子)の古本屋へ刑事たちが向かうシーンでも、ふたたび浅草が登場。
こちらのシーンでは、つやは新劇場の向かいに古本屋を構えています。
王子警察署
ブローニングを不法所持していたチンピラ(瀧島孝二)が捕まったのが王子警察署。
チンピラが所持していた拳銃が深川の事件で使われたブローニングと同一のものだと判明し、吉岡刑事(花沢徳衛)が王子署まで出向いてチンピラに話を聞く。
木場
物語のクライマックスの舞台は木場。
銃撃戦の後、貯木場での逮捕劇へと繋がる。
主題歌・挿入歌
挿入歌
- 「渡り鳥いつ帰る」コロムビア・ローズ
楽曲使用シーン
- 「渡り鳥いつ帰る」
宮川刑事(南原伸二)が浅草の古本屋・つや(星美智子)のもとを訪れ拳銃の取引を持ちかけるシーンで、街中に流れている。
劇中に登場する映画
『ファンタジア』
『ファンタジア』は、1940年(昭和15年)公開のディズニーのアニメーション映画。
日本公開は1955年(昭和30年)9月23日。
宮川刑事(南原伸二)が浅草へ捜査に行くシーンで、浅草ロキシー映画劇場の入口上部に『ファンタジア』の大きな看板が見えます。
『べらんめえ獅子』
『べらんめえ獅子』は、1953年(昭和28年)12月29日公開の東映の時代劇映画。
監督は渡辺邦男、出演は市川右太衛門・花柳小菊・高千穂ひづる など。
浅草新劇場前に『べらんめえ獅子』のポスターが掲示されています
『悪魔が来りて笛を吹く』(1954)
『悪魔が来りて笛を吹く』は、1954年(昭和29年)4月27日公開の東映の映画。
監督は松田定次、出演は片岡千恵蔵・三浦光子・千原しのぶ・杉葉子・喜多川千鶴など。
『悪魔が来りて笛を吹く』というと、西田敏行が主演した1979年(昭和54年)の作品が有名かもしれませんが、本作の劇中でチラリと映り込むのは、千恵蔵さんの金田一耕助シリーズの作品です。
浅草新劇場前に『悪魔が来りて笛を吹く』のポスターが掲示されています。
あの企業・あの商品
パーカー
田町の死体発見現場に落ちていたのがパーカーの万年筆。
パーカーは英国王室御用達の高級筆記具ブランドです。
万年筆の元々の持ち主はジョン・ヒルトン(ファリー・ジェームス)という外国人ですが、黒岩千造(富田仲次郎)によって盗まれたのでした。
(※映画サイトなどでは、ファリー・ジェームスの役名は「ジョン・ヒルマン」となっていますが、正しくは「ジョン・ヒルトン」です。)
なつかしの文学・漫画・雑誌
「映画情報」
東京駅の「理容タカヤ」に訪れた宮川刑事(南原伸二)が待合室で手に取った雑誌は、国際情報社から発行されていた「映画情報」1955年10月号。
表紙の写真は左幸子。
「ターザンの怒り」
吉岡刑事(花沢徳衛)が、つや(星美智子)に拳銃の取引を持ちかけるシーンで、花沢徳衛が手にしている古本は、漫画本「ターザンの怒り」。
金の星社の「ターザン文庫」のうちの一冊で、著者は高野てつじ。
昭和29年6月に発行されたものです。
ターザン文庫では、ほかに「ターザン魔法の泉」「魔境のターザン」「絶海のターザン」「ターザンの復讐」といったラインナップが揃っていたようです。
いずれも著者は高野てつじで、定価は100円。
「罪と罰」
小磯(伊藤久哉)が持ち歩いていたのが、ドストエフスキーの「罪と罰」。
本の中身がくり抜いてあり、取引した拳銃を隠すために使われています。
劇中に出てきた本は、新潮社の「世界文學全集 第二十二巻 罪と罰」。
翻訳は中村白葉で、昭和3年5月に発行されたものです。
キラリ☆出演者ピックアップ
潮健児
胡散臭い小鳥占いをやっている浅草の露天商。
宮川刑事(南原伸二)が捜査で訪れた古本屋のすぐ隣で商売をしている。
この露天商曰く、おみくじ占いは無邪気な小鳥ちゃんがやるんだから当たるらしい(笑)
刑事である南原伸二にも小鳥占いをやらせようと売り込んだりと、商魂たくましいんですが、南原伸二からは売り込みを完全無視されるのが笑えます。
潮健児が演じた数々の役の中でも、この小鳥占いの役はとても好きな役。
胡散臭いのには違いないんですが、小鳥ちゃんに対する愛情みたいなものもしっかりと感じられて、ちょっとホッとするキャラクターでもあります。
そして、こんな露天商いるわ!と思わず唸ってしまう調子の良さ。
あの軽快な客さばきは、潮健児だからこそ演じられるもの。
潮健児というと、どうしても仮面ライダーの地獄大使とか特撮のイメージが強いかもしれませんが、こういう特撮以外の作品での素晴らしく楽しい演技もぜひぜひ多くの人に見てほしいなぁ…と、願ってやみません。
【映画レビュー】初期作品独特の匂いも感じられる、「警視庁物語」シリーズ第一作。
24作品もつくられた「警視庁物語」シリーズの記念すべき第一作。
東映の現代劇が大好きな人間にとってはたまらない顔ぶれがズラリと揃っています。
このシリーズに出てくる人たちみんな大好きすぎて、もうストーリーがどうの以前に、画面に映っている人たちを眺めているだけでも大興奮です。
さて、記念すべき一作目は自動車強盗事件を扱った作品。
似たような事件が立て続けに発生し、さらには別の窃盗事件まで絡んできて、事件は混迷を極めます。
実質的な主演は、宮川刑事を演じている南原伸二でしょう。
事件の重要な手がかりを掴みながら、犯人を取り逃がしてしまいますが、終盤にはそれを取り返す活躍をみせます。
銀座のアルサロでバイトしている女・水原由美役で出演している和田道子は、後の高倉みゆき。
東映では時代劇の出演が多かったと思うのですが、こんなところに出ていたんですね。
キラキラしていて、脇役でもやっぱり目立ちますね。
彼女と関係を持っている相手が滝謙太郎というのも、個人的にはツボ。
その和田道子と滝謙太郎の協力によって、容疑者のモンタージュ写真が作成されるワケなんですが。
できあがったモンタージュ写真を見て、一瞬、近江俊郎かと思ったのは私だけですかね?(笑)
いや、ちゃんと犯人役の伊藤久哉に似ているんですけど、近江俊郎にもなかなかソックリで、なんか見る度に笑ってしまいます。
伊藤久哉と近江俊郎は別に似ていないと思うんですが、このモンタージュ写真は二人にソックリというのが謎。
たぶん、目元が似ているんでしょうね。
ちなみに、近江俊郎はこの映画には出ていません、当たり前ですけど(笑)
シリーズ初期の作品はアクション風味もプラスされていて、終盤の木場の貯木場でのドンパチも見もの。
水に飲まれて消えていく「罪と罰」も、味わい深い余韻を残します。
初期作品には若干の複雑味を感じるのですが、それもまたよし。
作品を追うごとに洗練されていく気がして、それもまたこのシリーズを観る楽しみの一つだったりします。