刑事(でか)【1964年(昭和39年)/東映】

1964年(昭和39年)公開の東映映画『刑事(でか)』。

主演の捜査主任役に丹波哲郎、ほか、江原眞二郎・里見浩太郎・安井昌二などが出演。

横浜・山下公園で誘拐された若い女性を、無事に救い出すことが出来るのか?
犯人・被害者・警察、それぞれのドラマに最後まで目が離せない、見応えある作品です。

 

作品情報

刑事(でか)
【公開】1964年(昭和39年)12月5日
【時間】91分/モノクロ
【配給】東映
【監督】佐伯清
【出演】丹波哲郎/里見浩太郎/江原眞二郎/安井昌二/中山昭二/水上竜子/志麻ひろ子(新人)/織本順吉/増田順司/菅井きん/藤里まゆみ/小川守/柳谷寛/石島房太郎/亀石征一郞/大木史朗/北峰有二/北山達也/杉義一/菅沼正/沢彰謙/岡野耕作/久保一/髙原秀麿/須賀良/都健二/田川恒夫/伊藤慶子/八方ゆり

あらすじ

拳銃を手に入れた自動車修理工・大平(江原眞二郎)は、横浜の山下公園で、車を停めて語り合っていたアベックを襲う。
襲われた上杉(里見浩太郎)はその場に倒れて記憶を失い、大平は上杉の恋人・昌子(志麻ひろ子)と車を奪い逃走する。
上杉が記憶を取り戻すにつれて、事件の真実が明らかになっていくが、誘拐された昌子の身元の詳細が判明すると、警察の人間たちはみな驚きを隠せず…。

 

ロケ地 

横浜の夜景

冒頭、横浜の夜景の空撮映像が流れます。
今の時代と比べると、全体的に街の灯りが少なく暗い印象です。
道路に連なる車の列が一番明るく感じられるくらいです。
昭和30年代だと、まだそれほどビカビカに光り輝く夜景…というほどではなかったんですね。
このくらいの暗さであれば、この時代の横浜では、夜空に星がたくさん綺麗に見えたでしょうね。

 

山下公園

事件の発生現場となった場所です。
港に停泊する大きな船など、これぞ横浜!といった素敵な風景です。

「ホテルニューグランド」が映るシーンもあり。
山下公園の「水の守護神」の噴水のバックに、煌々と輝く「HOTEL NEW GRAND」のネオンが見えます。
「HOTEL NEW GRAND」のネオンは、東京五輪が開催された1964年(昭和39年)に設置されたものなので、本作公開時はまだネオンが設置されたばかりの時期。
その後、1973年(昭和48年)にネオン管は一旦撤去されましたが、2014年(平成26年)に復活しています。
設置したてホヤホヤの当時のネオンの輝きをご堪能あれ!

 

江ノ島

逃走中の大平(江原眞二郎)が、途中で立ち寄るのが江ノ島の簡易ホテル。
ここで更なる事件を起こした大平は、その後、油壺・城ヶ島方面へ逃走します。

簡易ホテルのシーンは実際に江ノ島にあったホテルなのかは不明ですが、逃走ルートは国道134号~江ノ島大橋を通っています。

 

城ヶ島大橋

捜査主任・矢島(丹波哲郎)や刑事・新田(織本順吉)を乗せた警察の車両が、城ヶ島大橋を通過するシーンがあります。
その直後、海沿いの古い車庫?に逃げ込んだ大平が矢島たちに見つかりそうになるシーンは、城ヶ島大橋の下にある北原白秋の詩碑のあたりだと思われます。

その後、怪しい車両を発見した矢島が「城ヶ島大橋の入口を封鎖しろ」と指示を出し、警察の車両はUターンをして、怪しい車両を追います。

終盤、橋の上で警察と大平が対峙するシーンも城ヶ島大橋での撮影。

 

社会の出来事・事件

三河島事故

三河島事故は、1962年(昭和37年)5月3日、国鉄・常磐線三河島駅の構内で起きた、列車脱線衝突事故。
国鉄戦後五大事故のひとつです。

捜査主任・矢島の両親は、三河島事故の犠牲者だった…という設定。
三河島事故の実際の写真や当時の新聞記事がいくつか出てきます。

 

あの企業・あの商品

トヨペット クラウン

山下公園で襲われた被害者の上杉(里見浩太郎)が乗っていた車が、トヨペット クラウンの61年型。
モノクロ作品なので、画面では車体が黒っぽく見えるのですが、野村巡査(小川守)の台詞によると、車体の色はグレーとのこと。

 

トヨペット マスター

犯人・大平が勤務する自動車修理・整備会社「春田商会」の当直室の壁に、トヨペット マスターのポスターが貼られています。
ポスター中央には車体のイラスト、ポスター右上部にはハンドルのイラストが配されたデザインです。
モノクロ作品のため、ポスターに掲載されている車体のカラーは不明です。

 

キラリ☆出演者ピックアップ

柳谷寛

映画『月光仮面』シリーズの五郎八役での活躍が印象深い柳谷寛。
愛嬌ある風貌と、柔らかく素朴な雰囲気。
どの作品でも、彼の姿を見かけると、ホッと心が安らぎます。

本作では、事件の第一発見者の坂本巡査を演じています。
捜査中に第三子が生まれて、幸せの絶頂のなか張り切って捜査に励みますが…。
事件の追跡劇だけではなく、警察側のドラマも描かれる本作。
そのドラマのひとつが、柳谷寛演じる坂本巡査の物語。
彼の屈託のない優しい笑顔が、ドラマを強烈に胸に焼き付けます。

 

【映画レビュー】事件の裏の人間ドラマ…狂気は「犠牲」によって生み出された

L・トリートの原作をもとに、池上金男が脚本を手がけた作品。

女性に対して歪んだ感情を抱く自動車修理工・大平(江原真二郎)は、拳銃を入手し、山下公園で車内で語り合っていた男女を襲います。
襲われた被害者・上杉(里見浩太朗)は気絶して記憶喪失に。
大平は、上杉の恋人・昌子(志麻ひろ子)と車を奪って逃走。
時間の経過とともに記憶を取り戻した上杉が、少しずつ事件について語りはじめ、徐々に事件の真相が明らかになってきます。
警察は、誘拐された昌子を無事に救い出すことが出来るのか…!?

開始から30分過ぎたあたりで、誘拐された昌子の身元の詳細が判明するのですが、これがとても意外な展開でビックリ仰天。

事件の犯人が誰であるかは、見ている側ははじめから分かっているのですが、それでも最後の最後まで本当に目が離せない。

追跡劇が手に汗握る展開なのはもちろん、事件を追うだけでなく、犯人・被害者・警察…それぞれに、いくつものドラマがある。
人間ドラマとしても、非常に面白いんです。
捜査主任・矢島(丹波哲郎)の、警部としての立場と、一人の人間としての感情との狭間で苦悩する姿。
誘拐された恋人を心配する上杉に、さらに追い打ちをかけるような仕打ちをする酷い女の登場…。

そして、犯人・大平については、単なる悪と切り捨てるのではなく、彼もある意味では犠牲者であり気の毒であるとし、彼の女に対する歪んだ感情の元凶となっているものの正体も描かれています。
これ見て思ったのは、罪人か善人かに関係なく、大平のような「犠牲者」である人間って、きっと今も昔も世の中にたくさんいるな…ということ。
ラストの檻の中での大平の狂気の叫びは、「哀れ」という言葉以外に、適切な言葉が見つからない…。
そういう意味で、いろいろと考えさせられるものがある作品でした。

狂気の江原真二郎に、貫禄に満ちた丹波哲郎の演技。
最後まで緊張感みなぎる、見応えある一本です。

 

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