1957年(昭和32年)公開の東映映画『血まみれの決闘』。
高倉健・岡田英次のほか、中村雅子・木村功などが出演。
また、ボクシング界からは沢田二郎が特別出演しています。
ひょんなことからボクサーになり、世界王者を目指すことになってしまった健さん。
そして、岡田英次との固い友情と、渦巻く憎悪…。
なかなか見応えのある拳闘映画です。
ボクサー役のカッコイイ健さんの姿を、ぜひご堪能あれ!
作品情報
【時間】88分/モノクロ
【配給】東映
【監督】小石榮一
【出演】高倉健/中村雅子/岡田英次/木村功/加藤嘉/花澤徳衛/浦里はるみ/須藤健/佐々木孝丸/曾根秀介/大東良/菅沼正/明石潮/外野村晋/澤彰謙/片山滉/志摩榮/久保一/不忍郷子/瀧島孝二/瀧謙太郎/稲植徳子/楳崎博規/瀬川純/立花良文/澤田実/岩上瑛/山本緑/小野保/日尾孝司/井上千枝子/千賀清三郎/山内修/鈴木暁子/野澤哲男/トム・S・ザイノウラ/ジヤニー・ハリウラ/ビクター・マン/田端光晴/林國治/沢田二郎(特別出演)
あらすじ
九州から一緒に上京してきて、運送会社で働いている五郎(高倉健)と達吉(岡田英次)。
ボクサーになることを目指す達吉、一方の五郎は、達吉とは正反対で弱気でおどおどした大人しい青年だった。
しかし、ひょんなことから五郎が拳闘選手としてデビューすることになってしまい…。
ロケ地
東京都体育館
渋谷区千駄ヶ谷にある東京体育館。
当時の名称は東京都体育館でした。
1964年(昭和39年)の東京オリンピックでは、体操競技と水球競技の会場にもなった体育館です。
冒頭のダニー・ロウレル×沢田二郎戦と、終盤のカール・バートン×牛島五郎戦の会場になっているのが、この体育館です。
松屋銀座
五郎(高倉健)が、思いを寄せる女・みち子(中村雅子)と一緒に、果樹の苗木の即売会に行くシーンがあります。
この即売会の会場は、銀座の松屋の屋上です。
松屋の「松鶴マーク」の旗が風にはためいているのが印象的です。
松屋の屋上からは、銀座和光の時計台や、ナショナルの星形ネオンが見えます。
昼間のシーンなのでネオンは光っていないですが、夜のシーンであれば、これまた昼とは違う魅力のある風景になっていたでしょうね。
高田馬場駅
五郎が所属するジムのオーナー・田村(加藤嘉)の愛人であり、達吉(岡田英次)とも関係を持つ女・綾子(浦里はるみ)。
彼女が駅の出口から出てくるシーンがあります。
出口の看板を見てみると「高田馬場駅」と書いてあります。
出口周辺の様子を見た感じでは、どうやら戸山口のようです。
綾子は、戸山口のすぐ向かいにあるお菓子屋の二階に下宿している…という設定です。
戸山口側の映像って、なかなかレアかもしれませんね。
勝沼(?)
みち子は甲府出身という設定。
縁談のため実家に帰ったみち子を追って、五郎は甲府へ。
ブドウ畑で二人が思いを確かめ合うシーンは、ちょっと素敵☆
ただ、このシーン、撮影場所は甲府ではなく甲州市エリアだと思います。
おそらく勝沼ではないかと。
ぶどう畑のところにあるお屋敷がどこのお屋敷なのかはわからず、詳細な位置までは調べられなかったのですが、周辺の風景から、勝沼のぶどう畑ではないかと推測します(違ってたらスイマセン)。
主題歌・挿入歌
挿入歌
- 「ひえつき節」宮崎県民謡
- 「啼くな小鳩よ」岡晴夫(インストのみ)
楽曲使用シーン
- 「ひえつき節」
五郎(高倉健)が車の上に腰掛けて歌う。 - 「啼くな小鳩よ」(インスト)
綾子(浦里はるみ)と達吉(岡田英次)が部屋で話をするシーンで流れる。
昭和のスポーツ界【拳闘(ボクシング)】
主演の高倉健が演じる牛島五郎が、自身の意思に反してボクサーデビューすることになってしまい、世界王者を目指す物語。
ボクシング界の関係者も登場し、物語を盛り上げています。
沢田二郎
ボクサーの沢田二郎が特別出演しています。
沢田二郎は、17歳で東洋ライト級王者になった選手。
本作公開当時はすでに王座から陥落した後ですが、その後は日本ウェルター級王者にもなっています。
ちなみに、沢田二郎というのはリングネームで、本名ではありません。
冒頭、「世界ライト級選手権試合 ダニー・ロウレル×沢田二郎 十五回戦」で、まず登場(架空の試合と思われます)。
タイトルバックで試合映像が流れます。
ダニー・ロウレルという選手は実在したのか、一応調べてみましたが、確認できませんでした。
こちらはおそらく、架空の選手名ではないでしょうか。
さらには、主演の健さんとの試合シーンまであるんです!!
ちなみに、健さんもボクシング経験者ですので、健さんVS沢田二郎の試合、ぜひぜひお楽しみください!
レフェリー
レフェリー役には、ボクシング界から林国治が出演。
林さんは、白井義男の世界戦のレフェリーも務めた方。
五郎が世界王者に挑戦する注目の一戦…カール・バートン×牛島五郎戦のレフェリー役で登場します。
林さんは、本作の他にも、根上淳主演『近世名勝負物語 血闘』(1953年・大映)、三橋達也主演『勝利者』(1957年・日活)などにも出演しています。
拳闘絡みの映画でレフェリー役をやっているのを、ちょこちょこ見かけます。
あの選手の名前も!拳闘の試合告知ポスター
五郎が所属する田村拳闘倶楽部や、試合会場の壁などに貼られているのが、ボクシングの試合告知ポスター。
劇中で確認できたポスターに掲載されている情報を、イベント名・会場・日時・出場者等、確認できた範囲でまとめてみました。
この時代のボクシング界について知るための一つの資料として、参考までにどうぞ。
(※選手名の表記は、ポスターの表記通りに記載しました。)
「世界注目の一戦」
岩本正治 × ダニイ・キット(10R)
「??? ダイナミックグローブ」(???の部分はよく見えず)
6月1日
浅草公会堂
長谷川正之 × 金平正記(6R)
諸星光雄 × 赤木繁夫(6R)
森田道夫 × 田口久
「日米親善プロボクシング」
6月9日/甲子園球場 特設リング
ダド・マリノ × 後藤秀夫
「第九十一回ダイナマイトグローブ」
4月21日(土)/開場:午後六時半/協立公会堂
金井茂雄 × 近藤伸行(6R)
猪伏和男 × 山内英治(6R)
森山利男 × 星田和平(6R)
※劇中では、五郎(高倉健)がこのイベントで拳闘デビューさせられます。
「ダイナミックグローブ」?
5月16日
飯田睦男 × 大上光忠
奥山利夫 × 大久保邦衛
「?」※イベント詳細不明
沢村栄治 × 岩本正治
中西清明 × 大川寛
映画のなかの昭和プロ野球
田宮謙次郎(阪神)
五郎の対戦相手、世界王者カール・バートンの羽田到着を報じる新聞記事が登場するシーンがあります(もちろん、架空の記事です)。
その新聞に、プロ野球の記事もひっそりと一緒に載っています。
よーく探してみてくださいね!
野球の記事のタイトルは「好調の波に乗る阪神・田宮外野手」。
阪神・田宮の名前がひそかに登場するんですね。
ちなみに、当時は阪神の球団名が「大阪タイガース」だった頃ですね。
本作が公開された1957年(昭和32年)、田宮は最終的に打率が.308でリーグ2位の好成績を収めています(首位打者は巨人の与那嶺要)。
また、田宮は、翌年には首位打者を獲得しています。
あの企業・あの商品
カルケット
五郎と達吉の行きつけの大衆酒場「金波」。
そのお店の物置部屋の棚の上に、ひっそりと「カルケット」の缶箱が置かれています。
カルケットは大正9年に誕生したビスケット。
暗い物置部屋の中、棚の上にひっそりと控えめに佇んでいますが、レトロな可愛いデザインのカンカンは、やっぱりちょっと気になる存在です。
この缶はカラーで見てみたかったですね(本作はモノクロ作品です)。
ニッポンビール
「ニッポンビール」は、かつて日本麦酒が展開していたビールブランド。
大衆酒場「金波」の店内の壁に、ニッポンビールのポスターが貼ってあります。
司葉子がビールグラスを片手に微笑んでいるポスターです。
みち子の立ち位置がポスターの位置と被っていることもあり、ポスター全体が見えるのはほんの一瞬ですが、ついつい気になります。
報知新聞
五郎の活躍ぶりを報じる報知新聞の記事がたびたび登場。
劇中、いたるところに登場する拳闘の試合告知ポスターにも、報知新聞の名前がチラホラ見られます。
そして、冒頭の沢田二郎の試合でも、会場前に設置されたド派手な看板の一角には、やはり「報知新聞社」の文字が見られます。
報知新聞さん、本作のスポンサーだったのでしょうか。
櫻正宗
「櫻正宗」は、1625年(寛永2年)創醸の酒造会社。
五郎が所属する田村拳闘倶楽部の入口に、人が群がるシーン。
ここで、櫻正宗の前掛けを付けた男性が登場します。
前掛けが映るのは一瞬だけですが、お酒好きな人は、ついついこの前掛けに目がいっちゃうかもしれませんね。
三井銀行
なつかしの三井銀行。
皆さまご存じの通り、現在は三井住友銀行になっています。
五郎のマネージャーをしていた達吉が、五郎に内緒で通帳を作って、五郎のためにお金を積み立てていました。
その通帳が映るシーンがあるのですが、そこには「三井銀行」の文字が。
当時の通帳ってこういうものだったのね…と、興味をそそられるシーンでもあります。
森永製菓
綾子の下宿先のお菓子屋さんにて、森永商品の広告が確認できます。
お菓子屋さんの入口に「森永ミルクチョコレート」の暖簾が、壁にも「森永キャラメル(?)」の広告みたいなものが貼られています。
森永は、いろんな映画で名前を見かけますね。
キラリ☆出演者ピックアップ
花澤徳衛
五郎のトレーナー役で出演している花澤徳衛。
吃音なのですが、それについては「神経をやられた」という話が出てくるので、いわゆるパンチドランカーという設定です。
なかなか難しい役だと思うのですが、吃音に加えて表情・仕草等の表現力に見入ってしまいます。
特に終盤、五郎の身の危険を案じるもどうにもできず、酔っ払って泣き崩れるシーンなどは、なかなか凄まじいものがあります。
花澤徳衛の演技の新たな魅力を発見した役でした。
【映画レビュー】ボクシングに愛され、ボクシングに苦しめられた男の物語
なかなか骨太な拳闘映画です。
ボクサーを目指す達吉(岡田英次)と、同郷出身で、達吉とは正反対の大人しい性格の五郎(高倉健)。
しかし、ひょんなことから五郎が拳闘選手としてデビューすることになってしまい、達吉は五郎のマネージャーになります。
気の弱い素朴な青年・五郎が、思わぬ形でボクサーになり、世界への道を歩んでいく姿を描きます。
まさにボクシングに呼ばれてボクサーになった男…という感じ。
しかし、嬉々として世界への道を歩む…というわけではなく、「自身の意思に反して、世界への道を無理矢理歩まされる」という、悲壮感漂うストーリー。
ボクシングの才能があったばかりに、自分の本当の夢が打ち砕かれる…という悲しみを内在する作品であります。
拳闘選手役の健さん、必見ですよ!!
これがまた、なかなか格好よいのであります。
健さんはボクシング経験者なので、試合のシーンもあまり安っぽくならず、結構しっかりしていて見応えあります。
なんと、健さんが沢田二郎と対戦するシーンもあり!
「昭和のスポーツ界【拳闘(ボクシング)】」の項でも触れましたが、沢田二郎は東洋ライト級王者だった選手です。
そのような選手と健さんが対戦するシーンを見られるというだけでも、この映画の価値たるや、スゴイものがあると思いますよ!
五郎のデビュー戦のシーンでは、さすがにへっぴり腰のヘナチョコ感あふれる演技を見せていましたが、沢田二郎との対戦シーンなどは、なかなか見応えあり!!
後半、五郎と達吉が仲違いをして二人の関係がメチャクチャになるのですが、そのあたりから俄然面白くなってきます。
弱気でおどおどしていた青年が、終盤には豹変してしまって完全にボクサーの顔に…。
五郎が達吉への恨みをぶつけるように豹変していく様は、鬼気迫るものがあります。
演じている健さんも、終盤は本当にボクサーっぽい顔になってて、イイ顔してます。
五郎は最後に世界王者に挑むわけなんですが、その試合シーンは、悲しさやら切なさやらが入り交じる、なんともいえない感情に襲われます。
なんだかね、「あしたのジョー」のラストの、燃え尽きたジョーの姿を見ているような気分になっちゃうんですよね。
五郎のマネージャーをしていた達吉は、傍若無人な振る舞いでメチャクチャやり放題して落ちぶれますが、実はそんなに悪い奴ではないんですね、コレが。
そんな達吉が、終盤、五郎の危機を救うために、命がけで奔走。
終盤のドラマティックな展開に、手に汗握らずにはいられない。
最後はちょっと泣けちゃう。
男同士のアツい友情に胸打たれる拳闘映画です。