1958年(昭和33年)公開の大映映画『南氏大いに惑う』。
源氏鶏太の同名作品を映画化。
小さな会社を経営する社長(船越英二)が、若い女の子たちや、バーのマダム、芸者たちから追い回され、嬉しいやら迷惑やら…。
よろめきそうになりながらも理性と格闘する、モテモテ社長の悩ましい日々をコメディタッチで描きます!
作品情報
【時間】83分/モノクロ
【配給】大映
【原作】源氏鶏太(「講談倶楽部」連載)
【監督】枝川弘
【出演】船越英二/川上康子/八潮悠子/市川和子/角梨枝子/立花宮子/清水谷薫/柴田吾郎/鶴見丈二/小川虎之助/小原利之/大山健二/酒井三郎/原田詃/三島愛子/日髙加月枝/坂口芙沙子/小笠原まりこ/明石百合子/白井玲子/山根惠子/水原志摩子/如月敏子/田中三津子/小山慶子/見明凡太朗(語り手)
あらすじ
「おじさん、わたしを買って。」…そんな衝撃の言葉で出会った、会社社長の礼三(船越英二)と、19歳のはるみ(市川和子)。
若い娘との思いがけない出会いにニヤける礼三だったが、家に帰ると、義弟の浮気で家中が騒ぎになっていた。
浮気な義弟を咎める一方で、礼三は妻帯者でありながら、はるみに徐々に惹かれていき、どこか気まずさを感じていた。
そして、さらに困ったことに、義弟の浮気相手であった昇子(川上康子)からも惚れられてしまい…。
ロケ地
渋谷駅前
OPのタイトルバックに渋谷駅前の映像が流れます。
渋谷のハチ公前は、礼三(船越英二)とはるみ(市川和子)の出会い、重ねる逢瀬、そして別れのシーンなど、重要なシーンで何度も登場します。
ただし、船越英二たちが待ち合わせするシーンは、本物の渋谷駅前での撮影ではなく、セットでの撮影だと思われます。
ハチ公像含めて、とてもよくできています。
伊東温泉 陽気館
南電機の買収の件について返事をするため、礼三と深井(小川虎之助)が旅館で会うシーンは、伊東温泉の旅館「陽気館」。
廊下には「伊東」と書かれたポスター?があり、これのおかげで撮影場所が伊東であるとわかり、旅館も探し当てることができました。
入口付近には、すぐお隣にある「大東館」の看板もチラッと見えます。
日本自転車会館
深井工業が入っている「深井工業ビル」として登場する建物は、赤坂にあった日本自転車会館。
船越英二と川上康子の背後に映っている「ざくろ」の看板のおかげでわかりました。
当時の住所は港区赤坂田町です。
主題歌・挿入歌
挿入歌
- 「奴さん」
- 「新土佐節」
- 喜歌劇「天国と地獄」より序曲
楽曲使用シーン
- 「奴さん」
芸者が歌い、深井(小川虎之助)が芸者と一緒に踊る。 - 「新土佐節」
伊東の旅館で芸者たちが歌っている。 - 喜歌劇「天国と地獄」より序曲
キャバレーのフレンチカンカンのショーでバンドが演奏。
社会の出来事・事件
よろめき族
1957年(昭和32年)に発表された三島由紀夫の小説「美徳のよろめき」。
人妻の不貞を描いた作品ですが、そこから流行語となったのが「よろめき族」という言葉。
冒頭、渋谷のハチ公前で逢瀬を楽しむ学生くん&人妻(よろめき族)が登場。
それを見つめるハチ公像(=見明凡太朗)の語りが入ります。
「美徳のよろめき」については、小説が発表されたのと同年の1957年(昭和32年)10月には、早くも月丘夢路主演の映画が公開されています。
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キラリ☆出演者ピックアップ
見明凡太朗
本作では声の出演のみの見明凡太朗。
語り手の見明凡太朗は渋谷駅前のハチ公像という設定で、ハチ公像の目線から周囲の人間を観察し、語りを展開しています。
淡々としていながらも、どこかユーモラスで、そして優しい語り口。
語りが入るのは冒頭とラストの2場面だけなのですが、妙に印象に残ります。
特にラストの優しい語りは泣けます(わたしは本当に泣きました!笑)。
声だけでも、さすがの存在感を発揮されていますね。
【映画レビュー】ハチ公像も見守る、楽しいよろめきコメディ!?
原作は源氏鶏太の同名小説。
源氏鶏太の作品ってやっぱり面白いですね、ハズレがないです。
会社社長の礼三(船越英二)は、母親の入院費の工面に困っていた19歳のはるみ(市川和子)と知り合う。
黙ってお金を渡してはるみを助けた礼三は、若い娘と知り合えてすっかり気をよくして、どこか後ろめたさもありながら、はるみにデレデレ、締まりのない顔を見せる。
さらに、義弟の浮気相手、芸者、バーのマダムからも追い回され、困惑する礼三くん。
はるみによろめきかけるも理性と闘う男・礼三くん。
そんな彼のことなどそっちのけで、女たちの火花バチバチのバトルも展開され、最後は冷や汗モンです。
若い娘によろめきかける船越英二ですが、可愛い奥様(八潮悠子)がこれまた素敵なキャラで。
新しい寝間着を披露しながら
「一日の半分は夜なんですもん、せいぜい綺麗にしたいと思って」
なんて言っちゃうシーンは、なんとも眩しすぎて。
こんな素敵な台詞を素で言える人間になってみたいものです。
注目したいのは、若き日の田宮二郎。
本名の柴田吾郎名義で出演しています。
船越英二が経営する会社の経理課の社員役で、登場シーンはそんなに多くはないものの、やはりカッコイイですし、独特のオーラがあって目立ちますね。
そして、加藤三雄が手がけた音楽が楽しい!
若い女の子との思いがけない出会いにニヤニヤ・デレデレ、締まりのない顔の船越英二…。
そんな彼を疑いの眼差しで見つめる小川虎之助…。
愉快な音楽が、楽しい作品をさらに面白く魅せてくれます♪
礼三を取り合うライバル、はるみ(市川和子)と昇子(川上康子)が鉢合わせするシーンで「天国と地獄」をぶっ込んでくるあたりも、最高に面白い。
フレンチカンカンを踊るお嬢さんたちの輝くような笑顔とは裏腹に、船越英二は地獄のような顔をしているのが笑えます。
ラストは一体どうなってしまうのかとヒヤヒヤしながら見ていたのですが…。
市川和子が見せたいじらしさにホロリときて、思わず涙してしまいました。
彼女をずっと見守っていた渋谷のハチ公像・見明凡太郎の優しい語り口がまた、心に沁みるのです。